【西暦2000年最後の日、除夜の鐘を聞きながら】
「さあ、まもなく新世紀です!!!」
TVから元気いっぱいのタレントの声が聞こえてくる。
「新世紀」・・・子供の頃、この甘美な響きにどれほど多くの憧れを抱いただろうか。
そして、こんな時代を実際に迎えるとは誰が想像しただろうか。
ついに「21世紀」がその幕を開けるのである。
「では参りましょう、5,4,3,2,1、ゼローーッ!!!!」
「ファーーアッ。」新しい世紀が幕を開けたその瞬間、
大阪で一人の少年が盛大なあくびを立てた。
彼の名は服部平次、大阪きっての高校生探偵である。
(新世紀ねえ・・・。たいしていつもと変わらんなあ。)
もう一発あくびをした後で、炬燵のミカンに手を伸ばす。
【さて、その同じ時に隣の家では・・・】
「さあ和葉、もう年が明けたで。もう出発するで!!!」
「お母さん、もうちょっと待ってよー。」和葉、着付けに忙しい。
「和葉、今回は和服で遊びに行くって言うたのお前やないか。」父、呆れる。
「お母さんもボーッとしてないで手伝ってやーー!!」和葉、帯にくるくる巻かれ大奮闘。
「・・・だから、一人で着れる方法を練習しなさい、って言ったのに。」母、ため息。
「ほんまにあいつは、平次君のこととなったら見境ない作戦とるからなぁ。」父、ため息。
「だぁぁぁーーーーーっ!!!!」和葉、さらに大奮闘である。
一体、いつになったら服部家に挨拶に行けるのやら。
【30分後ようやく準備が終わって、服部家の玄関へ】
ピーンポーン!!服部家のチャイムが鳴った。
「あっ、はーーーーい!!!」勢いよく飛び出す服部母。
「おっ、おいでなさったか。」服部父、こたつから起き上がる。
「毎年毎年、懲りずによー来るなぁ。」平次も起き上がる。
「こら平次、なんて口のききかたや。」ポカッ!!
ガラガラガラガラ。服部家の玄関が開かれる。
「明けまして、おめでとうございます!!!」遠山家オールキャスト揃い踏み。
「おめでとうございます!!」すかさず服部母が迎撃に出る。
「今年もよろしくお願いします。」まずは遠山父。
「よろしくお付き合いくださいね。」そして遠山母。
「おばさま、明けましておめでとうございます。」最後に和葉。
「あらー和葉ちゃん、今年は晴れ着で?」
「ええ。ちょっと頑張ってみました。」袖をフリフリしながら答える。
「・・・親の財布の方も頑張ってみました。」遠山母苦笑。
「和葉ちゃん、ものすごく似合ってるよ。」
「本当ですか!?」苦労して着てよかった。
「きっと平次も喜ぶわ。ちょっと連れてきますね。平次ー!!」
「なんやねんオカン、せっかく寝てたのに。」平次君、登場。
「シャキッとしなさい!!ほら見てみ、奇麗やろ和葉ちゃん?」
(・・・・・)じっと和葉を見る平次。少し恥ずかしい和葉。
「・・・なかなか良い振袖やんか。」ガクッ。和葉気が遠くなる。
「何てこと言うんよ。まったくもうスイマセン。口の利き方がなってなくて。」
服部母、平次の背中をぎゅっとつねってみせる。
(アタタタタタ・・・)
【そんなこんなで、いよいよ服部家居間へ移動】
「では、明けましておめでとうございます。乾杯!!!」
「かんぱーいっ!!!」総勢6人の杯が交わされる。
「今年もよろしゅうお願いいたします。」服部父、まずはご挨拶。
「あ、いえいえ。こちらこそお願いいたします。」代表して、遠山父が返す。
一家同士のエールの交換。これが服部家と遠山家の年始めのルールである。
「さて、早速おせちでもいただきましょうか。」服部母が口火を切る。
「まずは、雑煮から行きましょうか。」服部父、好きなものからスタートする。
服部家の雑煮は、関西らしくカツオ節と白味噌で味をつけてある。
「じゃあ、お餅のオーダーとりまーす。」さっと5人の手が挙がる。
「わしは白餅2個。」服部父。
「私はアズキ餅と白餅1個ずつ。」遠山父。
「じゃあ私は白餅2個。」とは、遠山母。
「俺はヨモギ餅1個。」これは平次。
「じゃあ、私は・・・」最後は和葉のオーダーである。
「和葉ちゃんは白餅2個、でしょう?」
「どうしてわかったんですか?」
「毎年和葉ちゃんはそうやんか。未来のお嫁さんのことくらい、把握してます。」
「ええっ、未来のお嫁さん!?」和葉、遠山父おもわずうろたえる。
「まあ、上手にしごいてやってくださいね。表情一つ変えない遠山母。
「でえええええっ!?」加えて平次もうろたえるのであった。
「じゃあ、6人分お鍋に入れときますね。後はセルフサービスでお願いします。」
「はーーいっ!!!!」
「あ、そうや。ほなおせちの方もどうぞ。」遠山父が重箱を取り出す。
「私の渾身の一作です。」誇らしげに開ける遠山母。
「ウソつけ。俺らも散々手伝ったやないか。」遠山父、ブゼン。
「いっただっきまーっす!!!!!」早速平次が箸を伸ばすのであった。
【さて料理も一段落して、こたつで休憩・・・】
「はーーーーっ、もうおなか一杯!!」平次、こたつの中へ避難。
何やら本を取り出して、こたつの天板に広げてみせる。
「ごちそうさまでしたーー。」和葉ももう限界である。
いつものオレンジの服に着替えて、こたつで平次と合流する。
「なー平次、隣に入ってもいい?」強引に割り込む和葉。
「ああ、構へんで。」平次、迷いなく招き入れる。
「ダーリンッ♪」ドサクサに紛れて、平次の肩にもたれかかる。
「重たいやないかっ。」照れか、本当に重たいのか、振り払う。
「おうおう、まるで新婚さんみたいやなー。」遠山父、苦笑。
「ホンマに背中から見たら、新婚やぞこれ。」服部父もビックリ。
「まあ、二人ともそういう年頃やもんねえ。」通りすがりの服部母。
「あとは、高校卒業だけやね♪」ドサクサまぎれの遠山母。
「そーいえば、聞きたいことがあるんや。」
「何、平次?」
「さっきの振り袖やけど、なんで頭はそのままやったんや?」
ポニーテールを指差してみせる平次。
「その答えは、この中にあるんと違う?」
和葉は、天板に広げられたアルバムを指差してみせた・・・・。
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そう、あれは今から15年ほど前のこと。平次と出会って初めての夏。
これまでロングで通していた髪型を、ポニーテールに変えてみた。
「きれいやな、それ。」
平次から初めて聞いた嬉しい言葉だった。
あの言葉を聞いてから、わたしはずっとポニーテール・・・・・。
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「はあ、何のこっちゃ?」言った当人は、すっかり忘れているようだ。
和葉の言葉の真の意味を図りかね、ただ昔の写真をじっと眺めている。
「私からも、一つ聞いていい?」じっと平次の瞳をみつめる。
「な、なな、何?」予期せぬどアップにうろたえる。
「平次は、私のこと、迷惑じゃない?」
「はあっ!?」
「だって、小さい頃からいっつも私がくっついてて・・・・・。」
「今更何を言うとんねん。」苦笑する平次。
「だから、新しい彼女を作ろうとしても私が邪魔になったり、とかさ。」
「あのなあ、和葉?」
「何?」
「俺が何も考えんと、お前と一緒にいるとでも思ってたんか?」
「エッ・・・・・・・。」
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そう、あれは今から10年前のこと。
和葉が初めてクッキーを焼いた翌日のこと。
放課後の帰り道、大通りを歩いていたときのことだ。
「いらへん。」
「もってって!!」
「そやからいらへん。」
「へーじっ!!!」
「俺、帰るわ。」
「へーじっ!!!」袖を引っ張る。
と、その時頭上から鉄骨が降ってきて・・・・。
ズガジャーン!!!!!!!
ものすごい音を立てて、目の前に鉄骨が落下した。
もし、あの時に和葉が俺の袖を引っ張っていなければ・・・・・・。
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「なあ、どういう事?」和葉本人は覚えていないようだ。
「さあなっ。」
「教えてよー。」
「だめっ。」
「ケチー。」頬を膨らませる和葉。
「まあ、ええやないか。せっかくの新年なんやし。」
「何よそれ、答えになってないやんか。」
「まあ、そう言うなよ。」
そして、平次は和葉の頬にキスをした。
「イヤッホーーーーッ!!!」服部父、思わず奇声を上げる。
「平次・・・・・・・。」
「今年もよろしく♪」
こうして、服部平次、遠山和葉両名は新世紀のスタートを切ったのである。
END